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2009年01月15日

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

こんにちは。鳥です。

はがねのつるぎを手に入れたら、
つい橋を渡ってみたくなる。
そしてキメラの大群に襲われて、
死ぬかほうほうの体で逃げ延びるのだ。

「チリンチリン」と音が聞こえて目が覚める。
そばの林道を往く登山客の熊鈴だ。
時計は8時を過ぎようとしている。
まぁ慌てることはない、今日は長丁場だ。

朝食を支度しながらシュラフの中を探ると、
ややしっとりした感じは残るが湿り気はない。
タープも張りを失いかけていたが、
結露はほとんどしていなかった。

キャンプ場近くのトイレで水を補給。
2.5L持ち込んで残りは1.5L。
あと2日を乗り切るためには2.0Lで充分だ。
足りないなら雪をかじるなり溶かすなりすればよい。

奥茶屋キャンプ場~獅子口小屋跡~踊平~日向沢ノ峰~
蕎麦粒山~仙元峠~一杯水避難小屋

昨晩考えたこのルートは私にとってロングトレイルだが、
日向沢から先は前回も歩いた道のり。
目的地があの薪ストーブのあたたかい一杯水避難小屋と
思えば、たとえ辛くとも元気が沸いてくるというものだ。

9時出発。
地味な登りが延々続く。
舗装路を小一時間ばかり歩く。
暑い。
気温は時に10℃を超える。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

全身真っ黒だから、日の光をよく集めるのだろうか。
大のハチ嫌いなので、春になったらウェアを一新したい。

獅子口への入口で一休みしていると、
砂埃を巻き上げながら数台の車がやってきた。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

「水資源パトロール中」
と書いてある。
林野庁かなんかの集まりか。
10数人のおじさんたちが
「じゃあこのへんで飯にするっぺ」
など気勢を上げる。

林道を下り、登山道へ。
するといきなり橋があった。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

これを渡ったのがいけなかった。
ワサビ畑の横の狭い道を登ると、
「立ち入り禁止」の看板が。
この先を行くのか、
迷いながら右往左往し、
来た道を引き返して、
橋を戻ったり渡ったりすること2度3度。

ここで話は唐突に現実へ戻るのだが、
私が横浜支社から日本橋の本社への異動を
命じられた際、やはり道に迷って30分も
付近をうろうろしてしまった。
挙句の果てには全く方向がわからなくなり、
タクシーを掴まえての初めての本社出勤となったのだ。

信じがたいだろうが、これは一度だけではない。
翌日もやはり道に迷ってタクシーを掴まえる羽目に
なったのである。

新宿駅はいまだにどこの出口に出るのか、
文字通り出たとこ勝負だし、
空港に行けば到着ロビーだか出発ロビーだか
わけがわからずそこらへんの人を掴まえては、
尋ねて回らなければならない。
全てがフワっとした感じだ。

そんなわけで30分。そこらを歩き回ってようやく
正しいルートが見つかった。なんのことはない。
その橋を渡ってはいけなかっただけだ。

気を取り直して先を急ぐと、
次第に空気はキンと張り詰め気温2℃。
清流のところどころが氷柱になって美しい。

水たまりが凍っている。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

ここはストックを刺さねばなるまい。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

北斗七星を刻んでおいて、
道に迷った溜飲を下げる。

トレイルの雪も徐々に深くなり、
橋の上も凍った箇所が現れる。
慎重な足取りでそれを渡りながら、
そういえばこんな光景をかつて
見たような覚えがよみがえる。

屋久島・白谷雲水峡。
そして、縄文杉に至る川沿いにも
こんな橋が架かっていたっけ。
こちらは東京、かたや世界遺産。
格こそ違えど引けはとらない。
私にはそう感じられた。

迷ったり遊んでいたりしたから、
だいぶ時間を食ってしまったようだ。
そろそろ獅子口小屋跡かなと思っていたら、
跡ではなく小屋が現れた。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

営林署の避難小屋かなにかだろうか。
あたりを探ってみたくなった。
そして、みつけてしまった。

人の足にしては小さい。
鹿とすれば大きい。
楕円を帯びたその丸い足跡は、
成人男性の手のひらをもう少し
大きくしたようなサイズだった。

熊か?
その足跡は、
尾根に向かってやや蛇行しながら
登っていったことを示していた。

ザックを背負い、その場を離れる。
不思議と恐怖心はそれほどなかった。
まだ熊と決まったわけじゃないし、
今は冬だ。
熊は冬眠すると、小学生でも知っている。
熊なはずない。しかし。

「それなら、あの足跡は、なんだ?」

雪は一昨日に降ったばかりだから、
足跡が残ったのはそれ以降のはずだ。
そんな疑念を巡らせながら歩いていると、
すぐに獅子口小屋跡へ到着してしまった。

長沢背稜踏破への道(2日目:獅子口死闘編)

跡とは言え、空気の中にかつて人のいた
気配が残っているとでも言おうか。
ほっと一息つき、安心して岩に腰を下ろした。

とたんにおなかが空く。
しかし、熊は匂いに敏感と聞く。
かの土屋氏も、JMTを歩く際には
食事の場所と睡眠場所を分けていたと、
ここにある。

ただ、背に腹は変えられない。
足跡の進む方向を考えれば、
おそらく秩父方面へと抜けていったのだ。
こんな人の気配が残る場所に
わざわざ熊がやって来るだろうか。

そんな言い訳をつくって、
昼食をとった。

腹が満たされると、
姿の見えない熊に怯える私が、
なんだかばかばかしく思えてきた。
前回だって、鹿と野犬を間違えて、
ナイフを片手に架空の死闘を
演じたばかりだ。
臆病にもほどがあろう。

時計は13時を回っていたが、
そこから踊平まではコースタイムで30分。
日向沢ノ峰はすぐそこだ。
気持ちも足取りも軽く、歩を進める。

と、もうこのへんで大丹波川も凍りついたか。
川の流れが聞こえなく、シンと静まり返り、
時折、風の音がゴォーと耳に響くだけだ。

谷間になっていて、雪が吹き溜まっている。
脛まで埋まり、時に膝まで達する雪を
かきわけながら、トレースだけを頼りに
ずぼずぼ足を運んでいく。
どこが登山道なのか、見当もつかない。

急な斜面だ。
そして雪の下は、大量の落ち葉。
激しく乱れた地面が、先駆者もここに
難儀したことを現していた。

そこでまさか、
トレースが途絶えるとは思ってもみなかった。
斜面の中腹あたりで、踏みならした跡だけを残し、
その先は無情にも自然のままの雪面が広がっている。

ルートを示す赤いテープは、とうに見失った。
前方に稜線は見えるが、斜度は徐々にきつくなっている。
左手には大きな岩。そのむこうは切り立っているのか、
迂回できるのかできないのかもわからない。

右手は丹波川の沢の続きで、そこをつたっていけば、
稜線に出れる可能性はある。
しばし考え、出した結論に従い、
ルートを直角に変え、林の隙間を縫っていく。

ところどころに切り倒した木が雪の下に隠れ、
足を取られる。こここそ本当の吹き溜まりで、
膝までの雪が当たり前になった。
ちょっとした斜面で滑り、転げ落ちると、
半身が雪に埋まる。

遭難でもしたかのようだ。
それでも、元来たトレースをたどれば、
帰れる安心感はある。

どうにか目指す沢筋に出た。
あとは稜線目掛けて登っていくだけ。
斜面はきついが、あれを越えれば踊平だ。
たとえイレギュラーなルートでも、
日向沢から伸びる防火線の太い道筋の
どこかしらには出れるだろう。

そこから先は、カツーラ・アルミクランポン
出番である。こいつさえあれば、あの平面の
トレイルを、さくさく進めるはずだ。

秘密兵器の登場を控え、気分も高揚。
覚悟を決め、景気付けに水を飲み、
きつい斜面に取り付いた。

その矢先、
またしてもあれをみつけてしまったのだ。
成人男性の手のひらを、
もう少し大きくしたサイズのあの足跡を。

負け戦は、潔く。

一瞬にして、意気消沈してしまう。
さっきの熊に違いない。
この先にいるかもしれないと思うと、
ルートを外れてまで斜面に取り付く気力が底をつく。
今やインジケーターはゼロどころか、マイナスに振り切り始めた。

自ら刻んだトレースを一歩と違えることなく、
先駆者に踏みならされたあの場所へ戻り、
シリセードを繰り返しながら獅子口小屋跡まで撤退。

時間は15時を過ぎていた。
地図には川苔山に小屋マーク。
日が暮れる前にそこまで行ければいいが、
無理なら横ヶ谷平でビバークしよう。
「平」と付くぐらいだから、
平地があるには違いない。

ここもトレースが途切れていたらと不安もあったが、
無事、横ヶ谷平まできれいにならされた跡が残っていた。

到着すると、16時になるにはまだ少し余裕があるので、
川苔山に向かう。
薄暗くなりかけていたが、
夕陽がぼんやりとオレンジ色に空を染める頃、
遠くに小屋が見えてきた。

助かった。
と思うのも束の間、
小屋を覗くともはや廃墟と化している。

ここに泊まるのか。
現代っ子とは言え寝泊りに関してはタフなほうだと
自覚している私でさえも、大いに気後れさせるビジュアルだ。
名誉に関わる問題だから、小屋の写真は公開しない。

堂々と隙間風が吹き込む中、寝床をつくり、
夕食をつくって食べ、クッカーを雪で洗おうと外に出て、
眼前に広がる光景を見つめ、立ち尽くす。

長沢背稜は目の前だ。
その上に、ふざけたように丸い月が昇っていた。



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この記事へのコメント
道に迷うと不安になりますが
遠回りして戻ってきたら、何故かホッとしますね(笑)

最近忙しくて山には行ってませんので
鳥さんの記事で山を満喫しています^^

こちら九州の山は、1987年に大分で捕獲されて以来目撃情報はありませんので
熊の心配は無いんですけど、たま~に目撃の噂があります。
噂だけですけどね~^^;
Posted by ごち at 2009年01月16日 00:20
>ごちさん

私は迷ってるのがデフォルトなので
逆に正しいルートを進んでいると
「合ってるのかな??」と不安になってきたりしますよ。

九州は熊さんいないんですか。
四国もほぼいないと聞きますし。
熊がいない山はのびのびしすぎて
緊張感もゆるみそうですね。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年01月16日 10:03
鳥さん、初めまして。
書き込みありがとうございます。
雪景色、いいですね。
今は暖かくなって溶けてしまっているのではないかと思っているのですが、どうなんでしょう。いいタイミングでいかれたようですね。
Posted by 雪山でミルクティ at 2009年01月16日 21:32
>雪山でミルクティさん

ああ、わざわざ拙ブログまでお越しいただいてありがとうございます。
私が歩いた前々日にちょうど雪が降ったので、
川苔山の一帯はまだフワフワの新雪でした。
なにぶん冬山に入るのは2回目なので
その後の状況は推測つきませんが、
少なくとも川苔山から下った大根ノ山ノ神
あたりにはもう雪は残ってないかもしれませんね。

お忙しいとは思いますが、
またぜひ山行を思い立ちたくなるような記事をお願いします。
と、無茶なお願いをしておきます。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年01月16日 22:15
こんばんは。
一人のときにあまり熊には遭いたくないですよね。最近は熊をみても大きな野良牛だと思うことにしてます(笑)。ところでハチ対策グッズですが、ハチノックという携帯用のハチに効果がある殺虫剤が売られています。1本1800円くらいだったと思います。私は、すぐ手の届くポケットにかならず1本いれてます。今は、どこかにかたずけてしまいましたが、そのうち記事にしますね。
Posted by nekopuu43 at 2009年01月17日 00:34
たびたびすみません。
ハチノックの書き込みの訂正です。
ハチノックSの方です。値段をみたら、1050円でした。この前買ったときはもっと高かったような気がしたのに。どうもすみませんでした。
Posted by nekopuu43 at 2009年01月17日 00:40
>nekopuu43さん

丹沢から失礼しますよ。
ハチノックとは、また効き目がありそうなナイスなネーミングですね。
帰ったら早速チェックしておきます!

山に行くなら熊は地震や雷やオヤジみたいなものだとあきらめるしかないんですかね。リセットボタンがあれば一度、一か八かで闘ってみたいです。
Posted by tori-bird at 2009年01月17日 08:38
調べました。ハチノックSを購入して、春先からは必ず携行するようにしますよ。

以前ハチノックLを両手にもって二挺拳銃のようにして丸腰でスズメバチ駆除をしている人をテレビで見ました。あれがハチノックであったのなら、絶大な効果は拝見ずみです。
Posted by roadman71roadman71 at 2009年01月17日 10:38
http://www.kaiteki-club.net/hatinoku.html

これですかー。
人体に害がないわけないと思いますが、

>人体に対しては安全性の高いピレスロイド系成分

というのは誤って自分に噴射してしまいそうな私には
ぴったりですね。
私も春先になったら買ってみます。
願わくば使う機会がこないといいですが。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年01月18日 19:56
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