ナチュログ管理画面 トレッキング・登山 トレッキング・登山 関東 アウトドア&フィッシングナチュラムアウトドア用品お買い得情報
ブログ作成はコチラ
あなたもナチュログでアウトドア生活を綴ってみませんか?
Information
アウトドア用品の
ご購入なら!

2009年06月18日

北八つに散りかける。

こんにちは。鳥です。

目を覚ましたときからどうも頭が鈍く痛んだ。ナイフで突き刺すようにではなく、縄で締め付けられるように、鈍く、だ。コンビニで購入しておいた鮭おにぎりをほお張りながら、噛むリズムと正確に連動したこめかみを襲う疼きの感覚を確かめていた。早朝8時、普段なら通勤電車に揺られている時間だが、ここにはわずかな睡眠を貪ろうと座席を奪い合うサラリーマンもいなければ、高いヒールをカツカツ鳴らして香水を振りまくOLもいない。代わりにあるのは鳥たちのさえずりと、小川のせせらぎ。耳に伝わる心地よい響き、であるはずだった。空はどんよりと曇り、湿り気を帯びた冷たい風が吹き抜けた。

北八つに散りかける。
八ヶ岳山麓、渋の湯の登山口にて。
話は前後するが、いのうえさんの車に便乗し、渋の湯の登山口に到着したのは深夜未明。私はそこから黒百合平、天狗岳と越え、kimatsuさん主催の幕営地、オーレン小屋まで歩くつもりだ。行程ざっと5時間余り。奥多摩、丹沢といった低山の経験しかない私にとって、2500mを超える八ヶ岳は少々難易度の高いコースに思えた。今回ばかりはハイクと呼ばずに登山と言うべきだろう。強風、滑落、落雷・・・インターネットで検索すれば、肝を冷やす言葉が次々とヒットした。

いのうえさんはと言えば、私を下ろし幕営地の最寄りの桜平まで向かうという。タクシー代わりに登山口まで送り届けてもらった格好になり、私だけ縦走のようなコース取りをさせていただくことが申し訳なく思えたけれど、「ええよええよ!だって、桜平からのほうが近いし楽やん!」気遣いを示すためのその言葉は、まんざらでもないように聞こえた。

北八つに散りかける。
登山道入ってすぐ。すでに岩がゴロゴロしている。

登り始めは、軽く息を弾ます程度の急登。ウォーミングアップと言うには少し厳しいが、息を喘がす登りが延々と続くわけでもない。サッカーボール大の岩がうるさいものの、緑が濃い樹林帯とすぐ脇を流れる沢の水音が気分を紛らわせてくれるのでありがたい。

北八つに散りかける。
沢を何度か越える。橋が架けられ渡渉はない。

北八つに散りかける。
苔むした巌は千代に八千代に。

黒百合平まではコースタイムで2時間半。朝食の残りを食べ、休憩を挟んでも11時には着くだろう。装備は櫛形モデルの最軽量スペック。足取り軽く、午前中には行程の半分以上を稼ぐつもりでいた。あわよくば13時台にはテン場に達し、遅めの昼食をのどかに取るつもりでいた。登山とキャンプ。欲張りな私はどちらも楽しむつもりでいたのだ。しかしその目論見は、無為に外れた。もちろんこの時点での私に、計算外の事態が訪れることは知るはずもない。

北八つに散りかける。
黒百合の途中にある休憩ポイント。浄水器があれば水も確保できる。

開始から一時間余り。遠い汽笛に耳をこらすかのようだった頭痛は、今や目の前を通過する急行列車の轟音に変わっていた。足取りは凝固しかけた片栗粉の中を歩むように重く、立ち止まれば風に体温を奪われ、ガラスのコップに結露した水滴のような冷や汗が背中を伝う。地図を眺め、前進だけはしているという事実を確かめ、同時に、まだろくに進んでいないという事実も知ることとなった。

「長い一日になりそうだ」

深いため息とともにこぼれたその言葉が、いっそう気分を暗く滅入らせた。やはりいのうえさんと桜平から登るべきだったか。しかし、ここまで悔やんでばかりの人生であろうと、今ここで悔やんだところでどうにかなる問題でもない。登山はいい。どんなときでも前進するしかないという答えに帰結するシンプルさが、だ。たとえそれを望もうと、望むまいと。

ふと思い返し、ベースレイヤーに着ていたフラッドラッシュスキンメッシュを脱いだ。以前に何度か、これを着たために気分が悪くなったことがあったからだ。新たな解決策は、しばしば新たな問題点を生む。即ちこれを進化と言う。ただ、少なくともここは実験室ではない。ベース:Golite Drimove S/S、アウター:Patagonia Nine Trailsに変身すると、心なしか気分の悪さがやわらぎ、頭痛がすっと軽くなった。

北八つに散りかける。
10時45分、黒百合ヒュッテに到着。苦労したわりにはコースタイム通りに来ていた。

北八つに散りかける。
小屋内部は風情あるたたずまいだった。

北八つに散りかける。
テン場(1000円)。

北八つに散りかける。
向かいには小庭のような湿原が。

天狗岳に至る森林限界を超えた稜線が見え、かたや樹林帯と沼地が点在する小さな湿地帯。風は少し強いが、雑音はない。心地よくやすらげる空間、黒百合平にはまた来たいと思わせる魅力を感じた。

北八つに散りかける。
名残惜しく、何度も背後を振り返る。

北八つに散りかける。
黒百合ヒュッテ前の急登を越えたところにあるスリバチ池。

北八つに散りかける。
放置民の一部の方が狂喜しそうな形をした岩。

北八つに散りかける。
黒百合~天狗岳間はこのような岩だらけで歩きにくい。

1986年、チェルノブイリ原子力発電所のメルトダウンに伴い、死の灰を処理するために借り出された作業員たちに、放射能の恐ろしさが知らされることはなかった。気休めでしかない遮蔽材としての鉛の塊だけを渡され、命じられるがままにそれを後頭部に巻きつけ、崩壊した施設の内部へ、地獄の入り口へと飛び込んでいったのだ。そんな悲劇を唐突に思い起こさせるほど、ずっしりとした重みが後頭部を覆っていた。おまけに吐き気と眩暈にまで見舞われ、足場は悪く、風は強く、よろけながら歩き、私はひとり苦しめられていた。 

北八つに散りかける。
近いようで、遠い山頂。

寝不足と、疲労の蓄積。そして急勾配で一気に高度を稼ぐこの行程。条件はすべて整っていたのだ。つまり私は高山病にかかったのだろう。昔から乗り物酔いの激しかった私は、おそらく気圧の変化に弱い体質である。天狗岳山頂を目前に、風を防ぐ適度なスペースを見つけ、横になってしばらく休んだ。

北八つに散りかける。
ヘクサライトを広げたらちょうど体がすっぽり収まるスペースだった。

「おい、そこでだれか倒れてるぞ」
「いや、寝てるだけだろ」

そんな声で目覚めた。1時間ほど眠っていたようだ。わずかに頭の痛みも薄れていた。時刻は12時を回っていた。急がねば。重い体を無理やり起こし、天狗岳山頂を目指す。岩だらけでストックが邪魔だ。両手を自由にし、手がかりを掴みながらよじ登る。

北八つに散りかける。
山頂に到着。

北八つに散りかける。
西天狗岳を望む。

北八つに散りかける。
これはどっち方面だったろうか。よく覚えていない。

北八つに散りかける。
根石岳より眺めた天狗岳。

ピークハントの感動はあまりない。むしろ団体客の賑やかさが目に付き、騒がしさが耳につく。根石岳などはほぼスルー。登り返しを経て、あとはぐんぐん標高を下げていく。仮眠を取ったせいもあり、体調はかなり戻ってきたようだ。

北八つに散りかける。
山頂標柱よりも嬉しかった「オーレン小屋」の文字。

北八つに散りかける。
積雪箇所。深さ50cmほど。だがアイゼン不要。

北八つに散りかける。
オーレン小屋が見えた。

15時、予定より1時間以上遅れて幕営地のオーレン小屋に到着した。カフェオレを飲み一休みし、今回も担いできたGolite IONからシルタープとタープダジャーを取り出す。するとテント設営業者の代表を務めるいのうえさんが設営を手伝ってくれた。報酬は雷鳥の里を2コ。安いものだ。


北八つに散りかける。
シルタープ&ダジャー

北八つに散りかける。
逆アングルから。

北八つに散りかける。
サイドはループにフックで固定。

北八つに散りかける。
夕飯は親子丼。

夜半、雨が降り出してきた。ちょうどシルタープの長辺に吹き降ろしてきた風が当たる格好となり、幕体がバサバサと揺れる。しかしポールを確かめたところ倒壊の恐れはなさそうで、時折吹き込んでくる水しぶきさえ気にしなければ快適そのものだった。たいして雨は降らないだろう、仮に多少降られたとしてもスパイラルダウンハガーの撥水力に期待し、今回はビヴィもシュラフカバーも持たなかったが、その選択もあながち間違いではなかったと思えた。

北八つに散りかける。
左上から、茶柱さんのステラリッジ、トオルさんのハバハバHP、らんどさんのTrig1、いのうえさんのナイトヘイブン、kimatsuさんのワンショット

北八つに散りかける。
場違いな光景だった。

8時30分、シルタープからのそのそ這い出ると、すでにkimatsuさんとトオルさんとらんどさんは天狗岳に向かい出発してしまったと言う。挨拶もできなかったが、まぁ、いずれそのうちまた会えるだろう。茶柱さんといのうえさんとともに、桜平へ下山。ゆるゆると、だらだらと。

北八つに散りかける。
途中、なんとかと言うきれいな赤い花が咲いていた。

北八つに散りかける。
帰りに温泉で牛乳を飲んだ。

おしまい。


同じカテゴリー(ハイク)の記事画像
雪洞の中から見えたもの。
関西で萌え萌え。
ブログ主はまたちょっと旅へ。
沢ルポ、あるいはゴルジュと言いたかっただけルポ。
NULっと大菩薩へ。
やっちゃいました、ゆる登山!
同じカテゴリー(ハイク)の記事
 雪洞の中から見えたもの。 (2010-12-27 22:47)
 関西で萌え萌え。 (2009-11-24 01:06)
 ブログ主はまたちょっと旅へ。 (2009-09-18 22:58)
 沢ルポ、あるいはゴルジュと言いたかっただけルポ。 (2009-08-26 23:07)
 NULっと大菩薩へ。 (2009-07-26 14:40)
 やっちゃいました、ゆる登山! (2009-06-30 01:23)
この記事へのコメント
ああ!ご一緒してるような気持ちになりました。
それにしても、北八つに不似合いなテント村。
次回はご一緒させてください、ノーマルテントですが。
Posted by いまるぷいまるぷ at 2009年06月18日 10:39
なんと、舞台裏では・・この様な試練に逢っていたのですね~
さぞや独りで心細かった事でしょう・・・
無事にオーレンに辿りついて何よりであります!
独りだと体調不良や捻挫・・・・恐いです・・・
Posted by チャイ at 2009年06月18日 12:11
いつも以上に物静かかなと思えば、体調不良だったのですね。ご無事で何よりでした。

シュラフカバーを削ってまで持参のオムライスおいしかったです。雷鳥の里も食べたかったですが。
Posted by kimatsu at 2009年06月18日 12:44
読みながら目がウルウルしてしまいました。
そんな大変な事があったんですね(TT)

私も富士山で脱水症状&高山病で一人山小屋に残された時の苦しく心細い思いを思い出してしまいました(友人やツアーの方々は山頂へ)

しかし富士山なので知らない人たちの後をとぼとぼ下りれば良かったので不安はありませんでした←あたりまえか(笑)

私も乗り物には弱いので高山病にかかりやすいような気がします。
ダイビング中も窒素がたまったのか夕飯時頭痛で死ぬかと思いました(その後ナイトダイブで5mを20分間ウロウロしたら回復:まさに迎え酒状態)

お互い高い山、深い水の中は気をつけましょう(><)
Posted by ももたろう at 2009年06月18日 19:31
黒百合ヒュッテの小屋内部は、いい感じですね^^
私はテン場まで降りてきてから、頭痛が酷くなったのですが、鳥さんは行動中からでしたか。
お互い、繊細なのでしかたがないですよね~

で、好感度UPのバファリン作戦が載ってないのはどういう事ですか?
Trig「1」の誤記を含めて。
Posted by らんどらんど at 2009年06月18日 22:30
久しぶりに来たら間違えた場所にきたような・・・
Posted by roadman71roadman71 at 2009年06月19日 01:21
鳥さんもらんどさんも繊細なのですね・・・

そうですか。うぷぷ

それにしても、やけにまっとうな文体ですが
渋の湯は標高1850mくらいですから、そこからの登りでやられたのでしょう。
そういうことのしておきますけど、その影響で
まじめ風な記事になったのならば、いいじゃありませんか。
おっほっほ
Posted by 茶柱 at 2009年06月19日 16:29
んんんテン場の写真がなければtoriさんはストイックでシャイな人という印象がかもし出せるのに、、、、
Posted by nut's at 2009年06月19日 17:40
>いまるぷさん

ご一緒してついていける自信はないですが
3000m級デビューの折にはぜひガイドを!
もし酸素が足りずに呼吸困難に陥った場合は・・・
って誘導尋問はやめてください!!
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:31
>チャイさん

そうなんすよ。
でも誰かと一緒だと迷惑かけるのが嫌で無理して逆に迷惑かけたりして。
どっちにしろ山はこわいので今後も用心して登るようにします。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:34
>kimatsuさん

それを言うならそちらこそいつものホイル焼きが見れず残念でした。
が、お誘いいただいたおかげで良い経験もできて楽しかったです。
またぜひよろしくお願いします。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:37
>ももたろうさん

おおっと、なかなかおもしろそうな体験談をお持ちですね。
早くブログ開設を!

三半規管が弱いタイプな気がするので、
山にしろ海にしろ気をつけなければなりませんね。
どうもありがとうございますー。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:39
>らんどさん

ああ、あれだけバファリンのありがたみを感じたことはありませんでしたよ。
お礼もできずにすみません。
しかもTrigも間違ってるし。。

これはもはや高山病の後遺症だとしか思えません。
あまりに繊細すぎて、逆に雑さが出てしまうという矛盾。
お許しください。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:43
>roadmanさん

ニヒルな私はだめですか。そうですか。

それにしても復活おめでとうございます。
また今後ともゆるゆるとどうかよろしくです。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:47
>茶柱さん

あ、火柱さんだ!
ガスバーナーを破壊した影響で、
どういう関係でかわかりませんが、
ますますスケベにならないことを祈ります。

しかし思い返すとですね、
いのうえさんの車の中で寝ているときから
微妙に頭痛は始まっていたんですよ。
つまりひょっとするとガス中毒の疑いもあると!
あの殺傷力あるガスをこのまま野放しにしていいものかと、
思案に暮れる毎日です。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:51
>nut`sさん

ストイックでシャイでニヒルでセンシティブな私ですけど、
そこまで言われるとまたファンが増えてこまります!!
もう毎日のように行列ができて大変なんですからね、妄想の中では。
Posted by tori-birdtori-bird at 2009年06月19日 21:55
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
北八つに散りかける。
    コメント(16)